CROSS BRIDGEがお届けする日本のトップミュージシャンを支えるトップギターテクニシャンを紹介するYouTube番組「The SAMURAI Road Crew」。
第一回目は、山下達郎さんのギターテクニシャン、CROSS BRIDGEも運営するSHINOS代表の篠原勝氏を紹介します。
MCを務めるITSUKAは、山下達郎・全国ツアー“PERFORMANCE 2018”の中野サンプラザホールで準備をしているギターテクニシャンのもとへ。山下達郎さんが長年メインギターとして使用しているFender Telecaster(通称「ブラウン」)、サブギターのFender Custom Shop Telecaster、エレアコのGibson Chet Atkins、そしてギターアンプ SHINOS Luck6V (Yamashita Tatsuro model)をピックアップ。
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZOで発生したギタートラブルの話や今回のツアーからブラウンに使用したフレットについて、さらにテクニシャンが使っている便利なツールなども紹介!!映像ではほとんど見ることができない山下達郎さんの機材を詳しく説明してくれました。貴重な映像を是非お楽しみください。
The SAMURAI Road Crew :山下達郎(Tatsuro Yamashita)
Guitar Tech: 篠原勝(Masaru Shinohara)
MC:ITSUKA
Videography:AUSTIN Studio
Powerd by CROSS BRIDGE
The SAMURAI Road Crew Tatsuro Yamashita Gallery
友人から5万円で購入したFender Telecaster
昔、山下達郎氏が友人から5万円で購入したFender Telecaster。その驚きの価格とは相反して、ほとんどトラブルもなく長年愛用している通称ブラウン。ところが、2018年のRISING SUN ROCK FESTIVAL で、転換中にオーバードライブのペダルをオンにしたら「ジー!!!」というけたたましいノイズが発生。テクニシャンの篠原はブラウンでは経験のない事態ですぐさま原因を追究。空気中を飛び交っている電磁波によるものだと判明。ピックアップがノイズを拾ってしまっていたのだ。
通常、テレキャスはハーフトーンだとノイズがキャンセルされる仕組みになっている。しかし、ブラウンはリアにしてもハーフにしてもフロントにしてもノイズが変わらなかった。「ん?おかしい」と思った篠原は、サブギターのFender Custom Shop Telecasterに変えてみた。すると、ハーフトーンにするとノイズはでなかった。つまり、ブラウンには同じ方向、同じ磁極に巻いてあるピックアップがついていることが判明。山下氏にはライブでは2曲だけサブギターで演奏するようにお願いしたそうだ。
そのトラブル以外は、弦が切れることもなく、10曲ほど続けてもチューニングは狂わないそうだ。それには秘密があり、ナットの滑りが悪いと狂ってしまうため、ナットグリスを使用している。しかし、本当はナットグリスを使わなくてもナット自体の溝が、ストレスがないようにしっかり切れていなければならない。そのため、篠原は自分自身でナット交換を行い、チューニングの狂いが起きないようにしているそうだ。
初めて篠原がブラウンを手にしたとき、ネックはかなり順反っていた。しかも、トラスロッドは回し切ってしまっていた。数々の名曲を生み出したギターに手を加えるのはかなり勇気のいることだが、篠原は迷わず指板を削ってフレットを打ち換えた。しかし、それだけではまだ不十分であった。山下がよく使うのは3フレットから12フレットの高音弦あたり。使用を続けている間にその部分のフレットだけがつぶれてしまうのだ。
そこで、“PERFORMANCE 2018”のツアー前にもう一度フレットの打ち換えを行った。今回はFREEDOM CUSTOM GUITAR RESEARCHが独自に開発したステンレスフレット「SPEEDY」を使用。ビッカース硬度(金属の硬さ)は210。他のメーカーのステレンスフレットだとビッカース硬度が300くらいあるので、明らかに違う音になってしまう。フリーダムが開発した「SPEEDY」はニッケルシルバーに近いような音で、音の立ち上がりが早く、しかもステンレスならではのフレット自体が酸化しないため、メンテナンスフリーだという。
ここまでメンテナンスをするギターテクニシャンは多くはないが、篠原はなんでも自分でやっているそうだ。篠原にギターのメンテナンスをお願いしたい人はREPAIRから依頼できるので相談してみよう。
SHINOS Luck6V 山下達郎モデル
続いて、ギターアンプの紹介。SHINOS Luck6V 山下達郎モデルとして篠原が製作したものだ。レギュラーのLuck6Vとの違いは、キャビネットのサイズが幅広く、スピーカーは1発しか入っていないが2発入りのサイズとなっている。また、山下氏からのリクエストでトレモロとリバーブを向かって右側に増設している。内部回路は、抵抗・コンデンサの定数を少し変えると、サウンドががらりと変わるため、篠原自身が山下氏にはこれが合うだろうという定数をチョイスしてある。これは、篠原が山下氏のギターテクニシャンだからこそできる技だろう。山下達郎モデルは世界に2台しかなく、もう1台はレコーディング用として山下氏がスタジオで使用しているそうだ。SHINOS Luck6Vの特長であるバイアス調整機能も篠原自身が調整の仕方を説明してくれた。篠原が山下氏のブラウンとLuck6Vで「Sparkle」を試奏しているシーンもあるので要チェックだ。
ステージの守り神「ゴジラ」
山下のステージには「ゴジラ」が2体置いてある。篠原がギターテクニシャンとして参加したときから必ずいるそうだ。山下氏が大好きで2,3年前に2体になったそうだ。
ピックはFender ミディアムホワイト
山下氏が使用しているピックはFender ミディアムホワイト(トライアングル)。以前、日本製ピックを使用したこともあったが、カッティングソロを弾くと半分くらい削れてしまったのでFender製に戻したそうだ。
ソリッドボディのエレアコGibson Chet Atkins
取材前日にコンサートに足を運んだITSUKAが、なんのギターを弾いているのかな?と興味をそそられたのがダミーホールがないソリッドボディのエレアコGibson Chet Atkins。山下氏はChet Atkinsを全部で3本所有しており、今回のツアーには2本持ってきている。本人は、メインで使用しているダミーホールがないChet Atkinsのビジュアルをあまり好んでないそうだが、音量バランスが悪いChet Atkinsが多い中、ネック、フレット、ナット、ピエゾの音量バランスすべてにおいて抜群に状態がいいと篠原のお墨付きだ。
そして、篠原が紹介してくれた便利なツール、SCUD FG-SQ フェイスガード角シート 【スカッド】。山下氏のピッキングが強いときにボディに傷がつかないようギターガードを使用している。さらに、篠原用にシールドジャックの近くにも使用しており、本番中にチューニングをする際にフォンプラグが当たっても傷がつかないように貼っている。粘着があるわけではないので、ケースにしまうときは外して片付けている。
篠原が次に手を付ける修理は?
ギターアンプの製作だけでなく、篠原はピックアップのリワインドも自ら行う。メインギター「ブラウン」のノイズの事件があったので「ピックアップを変えてもいいかもね」という話を山下氏としているそうだ。自分で作るかフロントだけ巻き直し磁極も着磁しなおすか現在検討中。来年のツアーは、篠原がリペアしたギターがみれるかもしれない。
篠原よりギターテクニシャンになりたい方へメッセージ
この「ブラウン」は達朗さんのものですが、まるで自分のものかのように大切に扱う、そんな風にミュージシャンと接する、楽器と接する気持ちが大事ですかね。愛ですね。あとは、アナログとデジタルの時代ですよね。これからは両方の知識が必要かもしれないですね。情報がいろいろあるので、正しい情報をミュージシャンに与えられることも大切ですね。僕はデジタル得意じゃないんですよ(笑)。これからの皆さんにデジタルはやってもらったほうがいいかな(笑)。
プロの仕事は素晴らしい。それにつきます。さすが、達郎が長年頼りにしているだけあるのが仕事振りから分かります。長年ライブを観ていて、達郎さんがギターのチューニングをしているのを見た事が無くて気になってましたが、良く背景が分かりました。読んでいて感動しました。
Pingback: The SAMURAI Road Crew : 佐橋佳幸(Yoshiyuki Sahashi): Guitar Tech 須永敦(Atsushi Sunaga) – CROSS BRIDGE