アンプテクニシャン目線で、中古ギターアンプを購入する時に注意するチェックポイントを4つ挙げます。
チェックポイント1:電源トランス
ギターアンプで使われているパーツの中で、最も高価な「電源トランス」と「出力トランス」。中古ギターアンプを購入するときに、まずチェックしたいのはそのパーツです。
電源トランスや出力トランス本体が故障してしまうと、トランス本体を修理するということは稀で、トランスを新しい物に交換するのがほとんどです。中古ギターアンプの中には、トランスが一度壊れて、交換されている場合があります。
このトランスは、サウンド面にも大きな影響を及ぼします。
ヴィンテージアンプでトランスが交換されていると、本来のサウンドとは違いがあるはずです。そこで購入の際にも、トランス類が交換されていたら、その分だけ販売価格が安くないとおかしい。ヴィンテージギターも、ピックアップが交換されていたり、リフィニッシュされていたりしたら、価格が安くなっていますよね。
トランスが壊れたギターアンプを修理すること自体は可能ですが、実はトランス交換はアンプの修理でも大掛かりな作業で、電源トランス本体も値段の高いパーツ。100Wの電源トランスで2~3万円ほどします。修理費で2~3万円、メーカーに修理を依頼した場合は、周辺パーツなども一緒に交換されるので、8~10万円ほどかかることがあります。
SHINOSでは、入手できない電源トランスは専門の業者、 アテネ電機株式会社に作ってもらっています。
実際にMARSHALL 2061Xを何回修理しても出力トランスが飛ぶので、純正のトランスを諦めて、1ランク大きくしてオリジナルの出力トランスを作ったことがありました。
メーカーも高価なトランスをコストダウンしないと、利益につながらないのかもしれません。
チェックポイント2:スピーカー
トランスと同等に重要なパーツが「スピーカー」。
中古ギターアンプでは、スピーカーが交換されていることがあります。 スピーカーはメーカーや種類によってサウンドがさまざまで、音の違いも明確です。
ヴィンテージの中古ギターアンプの中で、オリジナルJENSENなどを搭載しているアンプを見つけたら、スピーカーユニット自体がへたっていなければ、貴重なアンプだと思います。まったく別製品のスピーカーに交換されていることもありますので、オープンバックのアンプでは、背面からスピーカーの種類を確認することをおすすめします。
もし、スピーカーが交換されていたら、価格はやはり少し安くないとおかしいです。
スピーカーは、簡単に言うとマグネットと、ボイスコイル、コーン紙で作られています。
ボイスコイルがマグネットの隙間に入っていて、これがズレて、ボイスコイルとマグネットがこすれてバリバリ音を鳴らしているものは注意。最悪の場合、焼き切れて音が出ません。ボイスコイルの故障は致命的です。
コーン紙は、外部から見える部分とフレームに隠れて見えない部分があります。コーン紙が破れていると、音を出したときに「ベベベ」という変な音がします。
多少のコーン紙の破れは、DBボンドという専用の接着剤で貼り合わせることができます。貼ってしまえば、それほど音に変化はありません。
破損が激しい場合は「リコーン」といって、まるごとボイスコイルとコーン紙を取り替えます。僕も何度かリコーンをやったことがありました。
50年台のFENDERヴィンテージアンプでは、バッフル板にパイン材の単板を使用したものがあります。ここに割れが入ってしまっているものを見かけたことがあります。この部分はもっと硬い材質のほうがよいのですが、取り替えると若干音が変わるかもしれません。
チェックポイント3:真空管
チューブ(真空管)アンプは「真空管」が重要とはいえ、チェックは困難です。
最も重要なことは、パワー管が4本であれば「4本すべて同じ製品であること」。
ネットのオークションで買うと、たまに「とりあえず挿しとけ」と別製品の真空管を4本寄せ集めた中古ギターアンプがあります。これはアンプテクニシャンから見るとNGです。
真空管のガラスが真っ黒になっているときは、ほとんどの場合、交換の時期を過ぎています。アンプ自体がダメなわけではないので、音を鳴らすことはできますが、購入したらすぐ真空管を交換したほうがよいでしょう。
真空管は、ヴィンテージ管もとても人気があります。
現行管もよくできていますが、ただ現行管では、ヴィンテージ管の音が出ません。どうしてもヴィンテージ管にこだわるのであれば、中古ギターアンプ購入の際には、真空管もチェックポイントになります。購入したアンプにヴィンテージ管が残っていれば、ラッキーです。
中古ギターアンプの真空管が、現行管かヴィンテージ管か見分ける方法は、ガラスに印刷されているロゴに注目します。ロゴのシルク印刷がきれいな場合は現行管です。ヴィンテージ管は「うわ、まさにヴィンテージ!」という雰囲気があり、シルク印刷も剥がれていたりしますので、見る人が見れば分かります。
ただ米国製のRCAはバッタ物もありますので、これも本物のRCAと比べるとシルク印刷が違います。
チェックポイント4:外装
最後のポイントは「外装」。
FENDERの古いアンプでは、バックパネルをとめる支柱のネジ穴が裂けてしまっていることがあります。修理のときに裏側のパネルを外さないとシャーシが出てこないため、上部のバックパネルをよく外します。これがネジ4本でとまっているのですが、ネジ穴が大きくなって遊んじゃっているんです。支柱自体がキャビネットから外れていることも多いですね。
MARSHALLのヘッドアンプでもたまにあります。 こうなるとキャビネットから外れてしまうので、ボンドで接着して固定する修理が必要になります。
TOLEXのような外側の革が破れて木材がむき出しになっていたり、スピーカーのネットが破れたりしているのは、「中古ギターアンプの味」ということでいいんじゃないですか。
中古ギターアンプのあらゆる修理に対応
実は最近のアンプより、50~70年代のヴィンテージアンプの方が交換パーツは揃っています。70年代のFENDERアンプの電源トランスなど残っていないものもあるとはいえ、ヴィンテージアンプのパーツショップは圧倒的にたくさんあります。
むしろ1980~2000年代の中古ギターアンプは、パーツが特殊で入手できないものがあります。VOXのボリュームやトーンを調整するポットを交換するといっても、簡単に手に入らないんです。
SHINOSでは海外からもパーツを取り寄せていますが、電源トランスは海外では120Vや240Vが主流で、日本用の100Vの電源トランスを作っていないメーカーもあります。電源トランスの交換に関しては、そこがネックになってきます。
最近の修理ではトランジスタアンプも多くなりました。
このトランジスタアンプの修理が、真空管アンプよりも大変。
というのは故障やノイズが発生する場合、回路図があれば問題ありませんが、なかったときは回路を追いかけて原因を究明しなければなりません。さらに回路が複雑。
中古ギターアンプを購入するときには、お店の方に必ず「電源トランスは大丈夫ですか?」「スピーカーは交換していませんか?」と聞いてみることが大切です。いちばん安心な中古ギターアンプは「メンテナンス済み」のものです。
あるミュージシャンが、オークションでヴィンテージの中古ギターアンプを安く購入したので「メンテナンスしてほしい」と持ってきていただいたことがありました。
ところが、違うメーカーのパワー管が混在していたり、トランスが交換されていたりしました。それでも真空管を入れ換え、不良なパーツを交換すれば、中古ギターアンプは必ず復活します。
オークションなどで、実物を確認できないときは、ある程度メンテナンスにお金がかかると思っておいた方がよいかもしれません。