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真空管ギターアンプ、交換時期を知るには
真空管を使ったギターアンプサウンドの醍醐味は、ナチュラルな歪みが得られること。
クリーントーンで定評のあるFENDER TWIN REVERBも、実はVOLUMEを上げていくと歪みます。真空管が増幅を繰り返して結果的に歪みを発生させます。これが心地よい歪みになるんです。
とはいえ、真空管は消耗品。寿命があります。寿命になれば交換が必要です。
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ギターアンプの真空管の交換時期は使用頻度にもよりますが、経験上、パワー管は消耗が激しいので、おおよそ2年~3年と考えておけばよいでしょう。ただ絶対値ではありません。10年使えちゃうことだってあります。
「おっ。そろそろこのアンプの真空管も交換時期だな?」と見た目で判断することは難しいです。音に元気がなくなった、何か以前よりも音抜けが悪くなったと感じるギタリストはいるかもしれませんが、耳で交換時期が分かる人はいないんじゃないでしょうか。少しずつ劣化していくので意外に気づかないのです。
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それでも何年も交換していないと、ガラス部分が黒ずんできます。こうなってくると、見た目で「この真空管は長い間使われてきた」と判断できます。しかし、新品のときから黒ずんでいる真空管もありますので、やはり技術者に見てもらうのがベスト。技術者は見分けられます。
真空管の交換時期を判断するには、真空管を測定器で測り、その数値で判断するとよいでしょう。毎回、同じリペアーショップに頼めば、以前の真空管測定データを残していることがあります。そこで再測定した際に、以前とどのくらい数値が変化しているかが分かります。
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SHINOSではリペアーやメンテナンス時に、測定データを残しています。そしてパワー管の電流値が5ミリアンペア以上ズレていたら、交換の対象にします。ズレていたからといってすぐに故障するわけではありませんが、最適な状態を目指すと「交換したほうがいい」と判断をすることが多いです。やはり事前に、現場のトラブルを回避できるならしておこうという癖がついているんですね。
SHINOSで使用している真空管の測定器は、アメリカの業者から購入したMaxi-MatcherとMaxi-PreampⅡ。日本では販売されていません。このエピソードは「HINTS AND TIPS」の1回目に書きました。
最適な状態でギターアンプを使いたいのであれば、定期的にメンテナンスをすることをおすすめします。
ギターアンプの真空管の構成
プロのローディーやギターテクニシャン以外の方のために、ギターアンプの真空管について基礎知識を解説します。
まず、真空管ギターアンプには3種類の真空管が使われています。
「整流管」「プリ管」「パワー管」です。
真空管ギターアンプによっては、整流管を使用していない機種も多いです。
整流管は交流の電気を、直流の電気に変換する真空管です。ギターアンプ内部では、真空管のプレートにこの直流電源を使います。電源部分を補っている真空管なので、ギター信号は整流管を通りません。同じ型番の整流管であれば、音質にはそれほど影響を与えないはずです。整流管を使わないギターアンプは、整流管の代わりに整流ダイオードを使いますが、この整流ダイオードと整流管の音は聴感上、音質も大きく違います。
左:ダイオード、右:整流管「GZ34」
エレキギター博士「ギターアンプの真空管の種類・仕組みについて」より引用
実際にギターアンプの音質を決める真空管は、プリ管とパワー管になります。
代表的なプリ管
左から:Svetlana(ロシア)、Golden Dragon(イギリス)、SOVTEK(アメリカ)、ELECTRO-HARMONIX(アメリカ)、PM
エレキギター博士「ギターアンプの真空管の種類・仕組みについて」より引用
実はプリ管内部には増幅器が2個入っています。すなわち1本のプリ管で、2回増幅できるわけです。そのプリ管で、プリアンプ部で原音の電圧を増幅します。その後、トーンコントロールなどを通ったときにギター信号が小さくなるので、またプリ管で増幅し、パワー管が受けれられる信号電圧まで増幅します。
そしてスピーカーを鳴らすために電力増幅する真空管がパワー管です。
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基本的にギターアンプはプリ管3本、パワー管2~4本という構成のギターアンプが多いのですが、プリ管1本、パワー管1本というアンプもありますし、プリ管9本パワー管4本などというギターアンプもあります。
パワー管での歪は奇数歪みといい、あまり心地よい歪みではなく、プリ管による偶数歪みの方が倍音を生成して、心地よい音になります。
ギターアンプ特有の歪みは、3本の真空管を使っていれば、初段の真空管では歪まず2本目、3本目と増幅されて独特の歪んだ音質になるわけです。
真空管の交換費用
ギターアンプの真空管を交換するときには、費用も気になりますよね。
プリ管は1本2,000円程度。耐久性に優れた12AX7(ECC83)がポピュラーです。パワー管と比較すると負荷がかからないので長く使えますが、音作りのカスタマイズのために交換する場合もあります。
一方、パワー管はプリ管とは違い、多くの電流が流れますので、使い方によっては消耗が激しくなります。4本で構成されたパワーアンプ管をマッチド・クワッドと呼び、4本で1万2,000円から2万円ほどかかります。
プリ管とパワーアンプ管を交換する場合は、真空管の費用だけで2~3万円かかることが目安です。
SHINOSへ真空管の測定や交換を依頼したい場合はREPAIRかLINEより受け付けておりますので、お気軽にお問合せください。
ギターアンプの真空管の名品「6L6」「EL34」
現在、真空管を製造している国は、ロシア、中国、スロバキアです。
SHINOSでは、スロバキアのJJ Electronic社の真空管を使っています。この真空管は耐久性に優れ、プリ管のマイクロフォニックノイズが少ないことが特長です。音も気に入っています。
とはいえ、マニアックな話をちょっとだけ語らせてください。
著名な真空管はたくさんあります。
たとえば今はなきアメリカの真空管メーカーRCA社の「6L6」。
そしてイギリス誇る真空管メーカーMullard社の「EL34」。
大出力の真空管は当時なかったため、パワー管のスタンダードとしてヨーロッパ全域を席巻しました。Marshallに使われ、攻撃的な音作りに定評のある真空管です。Mullardのプリ管「CV4004」も有名です。
しかし、最近このような真空管は使わなくなりました。とにかく値段が高い。パワー管4本で10万円ぐらいかかります。さらにマッチドされていないので、4本揃った真空管を探すのが大変です。
その他にも、アメリカのGeneral Electric(GE)社製6550A、TUNG-SOL、ドイツのTelefunkenがあります。
パワー管の耐久性を高めるバイアス調整
真空管を長持ちさせるためには、負荷をかけ過ぎないこと。
すなわち電流を流し過ぎないことです。
そのためにパワー管のバイアス調整が大切になります。
これはクルマでいうと「アイドリング」で、ギターからの音を入力していないときに電流が適正な範囲かどうか確認します。
パワー管のプレートに450~500Vの電圧をかけると、カソードに電流が流れます。このときグリッドの端子に36V~46V程度のマイナスの電圧をかけることで、電流を制御し、いわゆるアイドリング状態にします。電流が流れ過ぎていると、ギターの音を入力したときに電流が流れ過ぎてしまいます。それを続けていると真空管が飛んでしまう可能性があります。
ちなみにSHINOSのアンプでは、背面に独自開発のBIAS METERを搭載していることが特長です。他のメーカーでは緑のランプで確認できる製品がありますが、デジタルメーターで電流値を正確に確認できるのはSHINOSだけ。マッチドチューブがあれば、数分で交換とバイアス調整を可能にしました。
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私がギターテクニシャンとして真空管と長く付き合って、ギターアンプの真空管の交換を容易にするために開発したSHINOSのこだわりのひとつです。
SHINOS 代表・Master Builder 篠原勝
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